私が学生の頃、自己実現というコトバが一時期流行ったことがありました。
一見すると自己実現というコトバには、かなりインパクトがありますよね。
自己を実現する?
自己が現実のものになる?
人生を切り拓いていったり、
力強く前に進むようなイメージ。
まさに「生きていく」という印象を受けます。
私が学生の頃は、就職や転職などで自分が活躍できるような仕事に就こう、
自分の興味のある分野を見つけよう、
性格や特徴にあった職種につこう、
そんな文脈で、自己実現というコトバを使っていたように思います。
ところが、本来、自己実現という言葉は、職業や職種を意味しているわけではありません。
例えば、心理学者のアブラハム・マズローは、欲求段階説のなかで、自己実現欲求というのを最上位に位置付けました。
(ちなみに、この理論で自己実現欲求は承認欲求よりも上位というのが、個人的には興味深いと思います)
以下のように説明している精神科医の方もいます。
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自己実現というのは、『自分自身になる過程』であり、
『その人独自の心理学的特徴や
自分の可能性を十分に伸ばす過程』である。
(中略)
死ぬまで伸び続ける自分の素質、可能性を
十分に開花させる過程が
自己実現なのである。
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小林(1999)より引用
このように、自己実現とは、変化を含む一連の過程・プロセスであり、外にも開かれた状態なのだとわかります。
星野富弘さんという方がいます。
この方は、花や植物を題材にした詩画を書いていらっしゃいます。
そのなかに、このような作品があります。
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いのちが一番大切だと思っていた頃
生きるのが苦しかった
いのちよりも大切なものがあると知った日
生きるのが嬉しかった
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星野(2012)より引用
「いのち」ってなんだろう?
「いのちよりも大切なもの」ってなんだろう?
ずっと思っていました。
あるとき、私は詩の1行目の「いのち」を、「生きていく」と読み替えてみるとどうだろうと思いました。
そして、詩の2行目の「いのち」を、「生きている」あるいは「生かされている」としてみることにしました。
多様な解釈が可能であるからこそ名作なのですが、
こうして、言葉を勝手僭越ながら置き換えてみると、しっくりくると思いませんか。
詩の2行目の「いのち」を、つながり、絆とかにしてもいいかもしれません。
星野富弘さんは、事故で首から下が不自由になってしまいました。
星野さんの詩画は、口に筆をくわえて描いた作品でした。
詩画やエッセイを読むと、
筆舌しがたい苦しみや悲しみを抱えながらも、
残された身体の機能を用いて、
ユーモアを忘れず、
地道な努力を重ねて、詩画を描いてこられたのでした。
また、周囲の方々と共に歩んで来られたのでした。
自分の思いに縛られたり、囚われたりしている状態にあると、私たちは生きづらさを感じやすいものです。
私はそうでした。
その「自分の思い」というのは、どこからきたのでしょうか。
さまざまな形で、こんなはずじゃなかったという思いを抱えている方もおられると思います。
抱えていかなければならないのかもしれない。
もがいているうちに、ふとした瞬間、納得するような形が見えてくるかもしれません。
時間が癒してくれるのかもしれない。
そんな自分の思い通りにならないとき、「生きている」から「生かされている」に視点をずらせたら、
自分の思いを少しだけ脇に置いて、生かされている今に身を任せてみることができたら、ちょっとラクになるかもしれない。
そんな自己の実現のなされ方もあるかもしれない。
そんなふうに星野富弘さんの詩画を見ていて思いました。
参考文献
・Wikipedia contributors. (2020, December 16). 自己実現理論. In Wikipedia. Retrieved 04:57, November 16, 2022, from https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E7%90%86%E8%AB%96&oldid=80898958 (2022年11月16日参照)
・Elisabeth Elliot, Secure in the Everlasting Arms, Fleming H. Revell Company, 2004
・小林司 「生きがい」とは何か 自己実現への道 NHKブックス 1999
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